FemRes成長し続けるレビュー

女性史 · 論考

自己の歴史:平安時代の女性の日記

要旨

Sonja Arntzen は平安時代の三つの日記を、和歌、婚姻、宮廷労働、読書から読み解く。女性の自己表現を形づくる文学形式と、階層や代表性の問題を考える論考。

FemRes / 2015年1月1日
01

記事解析

Sonja Arntzen の論考「Histories of the Self: Women’s Diaries from Japan’s Heian Period (794–1185)」は Education About Asia に掲載され、『蜻蛉日記』『紫式部日記』『更級日記』を通じて、平安時代の女性が文章によって経験を組み立てた方法を読む。『枕草子』だけを論じるものではないが、結びでは紫式部の宮廷と清少納言が記した宮廷を比較する課題を提案する。女性の書きものを「私的な感情の記録」に限定せず、文学形式、社会的位置、自己理解が交差する実践として示す点が、この文章の価値である。掲載誌のページで全文を読める。2015年、第20巻第2号掲載、DOI は 10.65959/eaa.1336。

Arntzen はまず、和歌が散文の外側に置かれた装飾ではないことを示す。これらの日記では、出来事、歌のやりとり、後からの自己観察が結びつくことが多い。歌はその場の関係に応じると同時に、後から感情を捉え直す方法にもなる。『蜻蛉日記』は作者と藤原兼家の婚姻生活を軸に、待つこと、嫉妬、失望、参詣の旅を記録する。夫婦関係の苦しみを伝える記録だけとして読むと、詩歌、記憶、旅を通して書き手が観察の位置をつくる過程を見失う。Arntzen は、日記の自己観察が当時は制御しがたかった感情に、振り返り、考えられる形を与えることに注目する。苦しみを美化するのではなく、経験を分析可能にする形式がそこにある。

『紫式部日記』では、私的な観察が宮廷儀礼や権力の演出と並ぶ。Arntzen は、重要な皇子誕生の儀式や貴族社会の華やかさだけでなく、女房たちの衣装、扇に記された文句、互いによく似た表現への紫式部の目配りにも注目する。彼女はその後、なぜ自分が宮廷の祝いに完全には溶け込めないのかを考える。女性の書き手は「私的」な主題に閉じ込められていたわけではない。儀式がどう成り立ち、誰が支え、内部にいる人にどう経験されたのかを記せる。男性貴族による同じ儀式の漢文記録と比べることも、文体、役割、観察位置の違いを考える手がかりになる。それを普遍的な「女性の視点」に還元する必要はない。

『更級日記』は読書そのものを女性の人生の語りに組み入れる。作者は若い頃に『源氏物語』などの物語に夢中だった経験を振り返る。文学に時間を使ったことを悔やむ場面もあるが、後に残した文章からは、読書が想像力、慰め、世界を理解する道を与えたことも見えてくる。Arntzen は、作者自身の評価と物語が実際に示すもののずれに注目するよう促す。読書は道徳的に「気晴らし」と見なされることもあれば、女性が内面を築き、テクストと経験を結ぶ手段にもなる。旅や晩年からの回想は、「自己」が関係の外にある核ではなく、家族、宗教、文学、時間を通して語られることを示す。

本論考は『枕草子』と併読するのに適しているが、諸作品を同一の「女性の日記」にまとめるべきではない。Arntzen の比較課題は紫式部の宮廷と清少納言が表した別の宮廷を並べ、後援関係、形式、読者、政治的環境を比べるよう促す。『枕草子』は列挙、短い覚え書き、美的判断から独自のリズムをつくる。三つの日記は婚姻、宮廷奉仕、読書、人生の回顧をそれぞれ異なる形で扱う。並べて読む目的は、女性が皆同じ「自己」を書いたと証明することではない。異なる形式が、異なる語りの位置をどう可能にしたのかを見ることにある。

この教育的な論考は、読むべき価値と同時に距離も求める。古代女性の書きものを異文化間の「自己」の問いに置き、古代の経験を現代人物と比べる授業案を示す。議論の入口にはなるが、具体的な歴史の違いを代替できるわけではない。取り上げられるのは、読み書き、宮廷との関係、文化資源へのアクセスをもつ貴族女性が中心であり、日本各地やあらゆる階層の女性を代表しない。また、その文章を女性の自己意識の「発見」と呼べば、ヨーロッパ近代を唯一の尺度にする危険がある。より慎重に問うべきなのは、どのような物質条件、労働関係、文学伝統によって一部の女性が文章を残せたのか、そして誰の経験が現存する記録に入らなかったのかである。まずは平安宮廷の女性と文学を紹介する映像で概要をつかみ、『枕草子』の形式に戻って読みたい。

02

この論点を追う

01
あわせて読む / 2020年7月9日

『貴婦人の都』を再構想する——中世の女性の都市を現代フェミニズム・アートで読む

Charlotte Cooper-Davis

02
あわせて読む / 2020年7月3日

女性による最初の奴隷叙述――『メアリ・プリンスの生涯』

Sara Penn

03
あわせて読む / 2017年12月6日

アフリカ・フェミニズムとは何か

Minna Salami

読者の声

読者からの手紙

この記事への応答や、議論に加えるべき資料を共有してください。

ディスカッションに参加

コメント

コメントを読み込み中...

サポート

このコンテンツがお役に立ちましたら

FemResを支援