
障害正義 · 書物
障害の可視性:21世紀の一人称の物語
原題Disability Visibility: First-Person Stories from the Twenty-First Century
Alice Wong 編の Disability Visibility は、現代の障害者による一人称の文章を集め、障害文化、メディア表象、身体経験、法律、芸術、日常生活を公共の視野に置く。
書評と読書案内
Alice Wong 編『Disability Visibility: First-Person Stories from the Twenty-First Century』には、37人の障害者による文章が収められている。これは一人の著者が提示する障害理論でも、コミュニティ全体を網羅する本でもない。個人エッセイ、ブログ、マニフェスト、追悼文、議会証言など、形式の幅そのものが編集方針の一部をなす。障害文化は公式の政策論争だけでなく、記憶、芸術、ユーモア、対立、アクセシビリティをめぐる実践、日々の関係のなかでもつくられている。
具体例の一つが、Harriet McBryde Johnson の「Unspeakable Conversations」である。自身の人格をめぐり、哲学者 Peter Singer と議論した経験を記す。ここでは表象の賭け金がはっきりする。障害者は抽象的な生命倫理の議論に使われる「例」ではなく、その前提や言葉、帰結に異議を唱える当事者でもある。一人称の語りは、誰が知識をつくる主体なのかを動かす。診断名から人生全体を推測したり、語り手を「感動的」と評価したりする読み方に抗う。
編集者のプロジェクトページは、障害のある演者がつくり、障害のある観客に向けた演劇を論じる s. e. smith の文章も紹介する。Johnson の公開討論と並べると、「誰が発言できるか」から「人が集まり、演じ、居場所を得る場を誰が設計するのか」へ問いが移る。アクセシビリティは、すでに設計された空間や文化イベントに後から加える技術的修正だけではない。障害者の創作上の選択は、その場の目的や、そこで可能になる共同生活の形を変えうる。選集は公的な論争を、障害文化の実践や喜びへとつなぐ。
Disability Visibility Project のインフォグラフィックは、寄稿者を「Being」「Becoming」「Doing」「Connecting」の四つから眺める、便利だが網羅的ではない地図を提示する。これは障害者全員がたどる段階ではなく、アイデンティティ、変化、行動、つながりをめぐる異なる問いを示す。出版社の紹介と掲載者の構成は、障害を人種、ジェンダー、セクシュアリティ、文化、法律、技術、労働、公共生活と並べて考える。この広がりは、障害には代表的な一つの顔がある、あるいは可視化だけで排除が解消するという見方に抵抗する。認知されることは重要だが、誰が場に入れるか、ケアを受けられるか、創作や労働ができるか、地域で暮らし続けられるかを決める物質的条件も重要である。
選集という形式には限界もある。数十の異なる文章で、すべての理論的論争を決着させたり、障害者全体を代表したりすることはできない。中心は米国で、刊行は Americans with Disabilities Act 成立から30年となる2020年である。世界全体の概説や、各地の障害史・運動の代わりとして扱うべきではない。編集者自身も、最終的な定義ではなく、さらに学ぶための入口として本書を位置づけている。Alison Kafer の『Feminist, Queer, Crip』や、読者の地域で活動する障害者運動の文章と合わせると、共通する構造と、場所ごとの必要や戦略を区別しやすい。
編集者のページには、Sara Luterman による平易な要約、Naomi Ortiz による読書会ガイド、Alejandra Ospina が朗読するオーディオブックも案内されている。これらは二次的な便利機能ではなく、読者が自分に合う形式や速度を選ぶための実質的な入口である。FemRes にとって本書の持続的な価値は、多様な立場の声を集めることと、表象はアクセス、語る権限、コミュニティでの生活の変化につながるべきだという実践的な示唆を併せ持つ点にある。
本書は、より長いコミュニティ・アーカイブの取り組みの一部でもある。Wong の Disability Visibility Project は、障害者が StoryCorps でオーラルヒストリーを録音し、希望すれば米国議会図書館に保存できるよう呼びかけてきた。本書は編集された文章という形でその試みを広げるが、選び取られた一冊のアンソロジーであって、オーラルヒストリー全体ではない。この違いを意識すれば、本の紹介がプロジェクトの保存した多様な語り全体を代弁してしまうことを避けられる。
出典:Alice Wong の Disability Visibility Project にある書籍ページおよび出版社の版情報。以上は各資料に基づく FemRes の編集上の解釈であり、全エッセイを逐一紹介するものではない。
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