
職場の平等 · 書物
ジェンダー化された軌跡
日本と台湾の女性・仕事・社会変動
原題Gendered Trajectories: Women, Work, and Social Change in Japan and Taiwan
Wei-hsin Yu は歴史資料・調査・聞き取りから、日本と台湾で仕事の制度とケア責任が生涯のジェンダー格差をどう積み重ねるかを比較する。
書評と読書案内
『Gendered Trajectories』は比較上の謎から始まる。より豊かで福祉制度も広い日本で、なぜ女性の経済的地位の改善は台湾より遅かったのか。Wei-hsin Yu は差を「伝統性」の強弱に還元せず、企業、労働市場、産業政策へ目を向ける。歴史傾向、統計調査、両地域でのインタビューを用い、女性の人生の節目で制度が不平等をどう広げたり縮めたりするかを問う。
「軌跡」という概念は、ある年の女性就業率だけでは進歩を測れないことを示す。就職、結婚、出産、離職、復職、昇進は連なる段階であり、各段階が次の選択肢を変える。初期の職務は訓練や勤続年数を左右し、ケアによる中断は再就職の可能性を変え、復職時にどの仕事を得られるかが離職の経済的代償を決める。Yu は個人の選択を制度に戻し、働き続けられる条件、女性に当然視される家族責任、企業が報いる「途切れないキャリア」を検討する。
日本と台湾は、抑圧と解放の単純な対照ではない。本書は労働市場構造、職場の力学、女性の離職、家庭内責任、その後の再就職を比較する。日本では婚姻・出産期の就業中断が多く残る一方、台湾では若い世代の継続就業が女性の就労経験の積み上げにより大きく寄与した。これは単なる好みの差ではなく、職務構造、労働条件、雇用の組み立てに関わる。再就職を扱う章は、離職後に適切な仕事を見つけられるかが、一時的な中断を長期の収入・地位の損失へ変えるかを左右する点を示す。
だから「選択」は説明の終点ではなく、問い直す言葉となる。母親が退職を決めたとしても、その背景にはどのような労働時間、保育環境、賃金差、昇進規則があるのか。結果を個人の決定だけで説明すれば、制度は視界から消える。数年後には履歴の空白が能力不足の証拠とみなされることもある。フェミニスト的に読むと、採用機会、ケアの分担、雇用保障、復職の壁が相互に作用し、時間とともに格差を積み重ねる過程が見えてくる。
本書の比較は、欧米の工業化を普遍的な時間表とする考えも拒む。経済発展や福祉拡大が同じ女性解放を生むとは限らず、就職経路が増えても保障が弱まる場合がある。比較の目的は国家を順位づけることではなく、似たジェンダー期待がどの制度を通じて異なる結果になるのかを特定することだ。政策を考えるなら、保育、労働時間、昇進、社会保険、非正規雇用を合わせて検討し、女性だけに競争力向上を求めない視点が要る。
資料は主に20世紀後半から21世紀初頭を対象とし、プラットフォーム労働、最近の少子化政策、パンデミック、クィア/トランスの就労経験に直接答えるものではない。階級、民族、移民の差もさらに考える余地がある。東アジアの別の労働制度へ比較を広げるなら、移住家事労働とケアを描くニコル・コンスタブルの『香港のメイド労働』と併読できる。対象も問いの尺度も異なるが、仕事を家庭関係、制度、越境的不平等のなかに置く視点を共有する。
本書の方法は、何を説明とみなすかも変える。歴史的傾向、調査統計、聞き取りを組み合わせることで、個人の語りを企業組織や産業政策の構造に結びつけつつ、どちらか一方へ還元しない。女性の就業が増えても、雇用保障、収入、昇進、時間の自己決定が不平等なままということはあり得るため重要な視点である。中断の代償は一律ではなく、最初の職務、ケアへのアクセス、復職制度、雇用主が経験として認めるものに左右される。したがってライフコースの枠組みは、仕事への形式的なアクセスと、仕事が持続的な自立を支える条件とを区別する。
参考資料:Stanford University Press 版情報 · Oxford Academic 書誌と要旨 · JSTOR の目次と閲覧可能な章抜粋。
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